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「アンタが使う短剣を探してるのかい?」
問えば、美女は首を横に振った。さらりと流れる黒髪が動いて、その艶やかさに思わず嘆息してしまう。旅をする女性に共通の悩みといえば肌荒れ髪の艶がなくなるなどだが、この女性においては例外だろうと思わせるほどのみずみずしさである。
「いや、ラピード...こいつのやつだよ。本人、この二本が気に入ったみてぇなんだけど、二本使うわけにゃいかないからな」
「...」
オヤジは一瞬フリーズした。勿論、軍用犬が居る以上(その嗅覚をもって敵を探索するものもいるが、彼らの多くは戦闘能力も有しているのだ)、犬が戦うということは多くはないが驚くべきことでもない。ということはこの女性は獣使いか何かだろうとあたりをつけたのだが、いかんせん犬が人間用の武器を使うなどとは前代未聞である。いかな武器屋家業に長く携わってきたオヤジとはいえ、そんな知識は流石に持ち合わせては居ない。
「わふっ」
犬が一声鳴いて、女性が少しばかりその犬を振り返った。
そして、再度オヤジのほうに顔を向ける。
「使いやすいのはそっちの、そう、刃渡りの長いほうなんだけど。柄のところの太さはもう一個のほうがいいんだってさ。...皮布かなんかで補強してもらうことって出来るか?」
「え?あ、ああ。勿論だよ。コレと同じくらいにすればいいんだな?じゃあうちの若いのにやらせておこう」
「悪ぃな。...良かったな、ラピード」
「わう!」
...ああそうだきっとこの人は獣使いだから相棒と意思伝達が出来るんだそうじゃないと犬語を完全に理解しているようにしか思えないまさかそんな有り得ないし。
再び現実逃避を行ったオヤジは、息子に短剣の柄の調節を言いつけた。受け取って去ってゆく息子になんとなく行かないでくれと声をかけたくなったが(オヤジの本能が何かを告げていたのだ)、お客を前に居なくなるわけにもいかないのでぐっとこらえて黒髪美女を振り返る。
「姐さんは?」
「嗚呼俺は、もう決めてるぜ。」
二カリと見せられた商品に、今度こそオヤジはめまいを覚えた。...何せ、細身で貴族もかくやと思われるほどの容姿を持っている美女が...よりにもよってこの店でも一番重量級の分類に入るごっつい戦斧を大変男らしく担ぎ上げているのだ。...そりゃあ、泣きたくもなるだろう。
しかも、結構これは使いやすいよな。とかいいながらくるんくるん間違いなく子供ほどの重量がある其れを片手で回転させ、宙に放り投げてはキャッチするという力技と言う名の曲芸までやって見せるのだ。
...正直、見なければ良かったと後悔した。
「ジュディに槍術も教わってっけど、今んところはこっちだな。アビシオン使っちまうと、つまんねーし」
オヤジにはあずかり知らぬところだが、この黒髪美女こそこのパーティにおける一番槍で、重戦車で、特攻隊長であった。故に、伝説の攻撃力天井知らずの某魔武器の破壊力が恐ろしくなってしまっていたりして、デフォルトでクオーターダメージを付けて使用しているのだが、もちろんそこまでは気づけるわけもない...そして、知らないほうが幸せであろう。
ぶん、と横に凪いだ一瞬後、オヤジの頬を強い風がかすめる。...武器魔導具を使っていたわけではない。彼女は正真正銘己の腕力のみで巨大な戦斧を振り回し、風を発生させたのだ。
オヤジは、この女性が闘技場都市においてそろそろ出入り禁止を喰らいそうな200人斬り常連者であることを知らない。例え敵が群がってこようとも、斧の一閃でぶちのめすのは朝飯前なのだが、いかんせん見た目とのギャップがありすぎてオヤジの想像力に拒否権を発動させていたのでオヤジは深く考えるのを止めていた。
「ま、やっぱ武器は使いやすい奴を選ばないとな」
非常にいい笑顔で言ってのけるその美女に、かろうじて首を縦に動かすことだけはできたオヤジのプロ根性は賞賛に値するだろう。
この後、各々の武器を新調した彼らを見送ってぱたりと倒れた親父に息子と奥さんが泡を食うことになるのだが、取りあえずは空ろな目で、きちんと会計までを済ませたオヤジに拍手を贈るべきだろう。
いや、実際、こんなカンジだろうと思います。